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名古屋地方裁判所 昭和62年(行ウ)12号 判決

名古屋市東区葵一丁目二五番一号

原告

太洋物産株式会社

右代表者代表取締役

安永郁夫

右訴訟代理人弁護士

竹下重人

二村満

名古屋市東区主悦町三丁目一八番地

被告

名古屋東税務署長 石崎武

右指定代理人

佐々木知子

舟元英一

伊藤久男

松井運仁

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が、原告に対して昭和六〇年五月二七日付でした更正(以下「本件更正」という。)のうち、昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五八年三月期」という。)の法人税について所得金額六一一一万五八三七円及び納付すべき税額二四七〇万八三〇〇円を超える部分、並びに昭和五八年四月一日から五九年三月三一日までの事業年度(以下「昭和五九年三月期」といい、昭和五八年三月期と合わせて「本件各事業年度」という。)の法人税について所得金額三四八八万一九八三円及び納付すべき税額一三四七万四七〇〇円を超える部分をいずれも取り消す。

第二事案の概要

本件は、課税処分の取消訴訟において、〈1〉本件各事業年度における回収不能になったとされる債権の存否、及び〈2〉昭和五九年三月期における計上洩れ経費の存否が争われた事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、旅館業等を営む株式会社であって、法人税法二条一〇号にいう同族会社である。

原告の事業年度は、毎年四月一日から翌年三月三一日までである。

2  原告の本件各事業年度の法人税の確定申告から審査裁決に至るまでの経費は、別表1及び2記載のとおりである。

3  原告の昭和五八年三月期の修正申告にかかる所得金額は四二一三万〇六四四円であるところ、右以外に、売上除外にかかる益金四七三二万一二七〇円及び簿外預金に対する受取利息九万一三三一円の加算すべき金額があり、他方、本件更正に伴い増加する未納事業税(租税公課として損金に算入される。)七九三万〇六八〇円を減算すべきであり、右加算及び減算の結果は八一六万二五六五円である。

4  原告の昭和五九年三月期の修正申告に係る所得金額は、三四八八万一九八三円であるところ、右以外に、売上除外にかかる益金四六〇一万六四三〇円及び簿外預金に対する受取利息四万六一六一円の加算すべき金額があり、他方、右3と同様に未納事業税九二五万六二〇〇円を減算すべきであり、右加算及び減算の結果は七一六七万八三七四円である。

二  争点

1  回収不能になったとされる次の債権の存否

〈1〉 ロイヤルゴールド株式会社に対する債権二〇四九万六七二八円(昭和五八年三月期)

〈2〉 金門精工株式会社に対する債権五〇〇〇万円(昭和五九年三月期)

〈3〉 タムラ商事株式会社に対する債権二九〇〇万円(同右)

2  計上洩れ経費(合計五六万六七〇〇円)の存否(同右)

三  争点に関する当事者の主張

1  ロイヤルゴールドに対する債権

(一) 原告

原告の定款には有益事業に対する投資という事業目的が定められているところ、原告は、その趣旨にのっとり、昭和五六年九月一〇日から昭和五七年五月三一日にかけて、ロイヤルゴールド(東京都新宿区西新宿一丁目一六番一号所在)に対して、別表3の「1. 投資金額」の「日付」及び「金額」欄記載のとおり合計五七八〇万八三六四円を融資したが、同表の「2. 返金額」欄記載のとおり合計三七三一万一六三六円の返金を受けたので、残高は二〇四九万六七二八円となった。右五七八〇万八三六四円の出所は、原告の手許現金のほか、原告の預金(愛知商銀今池支店、朝鮮銀行今池支店)、原告の簿外預金(朝銀愛知信用組合今池支店の大森隆名義口座、信用組合愛知商銀瀬戸支店の松本和雄名義口座)、原告代表者の経営する近江屋有限会社の簿外預金(山田清名義)(ただし、原告の貸付金の一部返済を受けたもの)、及び近江松屋から原告代表者安永に対する仮払金である。ロイヤルゴールドは、同年八月に店舗を閉鎖し、在庫商品を処分し、賃借中の事務所を明け渡して店舗保証金の返還を受けたものであり、このとき、右残高二〇四九万六七二八円は不良債権となり回収不能になった。したがって、右金額を昭和五八年三月期において損金算入すべきである。

(二) 被告

原告がロイヤルゴールドに対して貸付けないし投資をした事実はない。すなわち、原告がロイヤルゴールドに送金したとする客観的証拠は何ら存在しないし、仮にロイヤルゴールドに対して送金がされていたとしても、それは原告の代表者である安永個人による送金である。

2  金門精工に対する債権

(一) 原告

原告は、昭和五六年一〇月三日から昭和五七年六月三〇日にかけて、金門精工(福島県伊達郡桑折町字陣屋七六番地所在)に対し、別表4記載のとおり合計五〇〇〇万円を融資したが、全く返済を受けないうちに、金門精工は昭和五八年二月に不渡手形を出して倒産し、同年六月に債権者等の関係者が集会を開いて弁済資力が皆無であることを確認し、これによって、回収不能であることが明らかになった。したがって、右金額を昭和五九年三月期において損金算入すべきである。

(二) 被告

原告が金門精工に対して貸付けないし投資をした事実はない。

3  タムラ商事に対する債権

(一) 原告

原告は、昭和五七年四月一日から昭和五八年三月二二日にかけて、タムラ商事株式会社(名古屋市中区新栄一丁目九番二〇号所在)に対し、別表5記載のとおり合計二九〇〇万円を融資したが、同月二七日、同社の代表者中沢勝雄から、原告の代表者に「経営不能のため事業は閉鎖する。弁済資金はない。俺は暴力団の仕事に戻る。」という連絡があり、原告が事情を調査したところ、同社は無資力となっており、同年四月ころ、右貸金は回収不能であることを確認した。したがって、右金額を昭和五九年三月期において損金算入すべきである。

(二) 被告

原告がタムラ商事に対して貸付けないし投資をした事実はない。

4  計上洩れ経費

(一) 原告

昭和五九年三月期において、経費計上洩れがあったものとして損金に加算すべきものは、次のとおりである。

ア 昭和五八年八月一一日 纐纈司法書士手数料 二〇万円

イ 同月三一日 同右 六七七〇円

ウ 同年一二月二九日 印紙代 六万円

エ 昭和五九年一月二三日 テーラー伊藤手数料 三〇万円

合計 五六万六七七〇円

(二) 被告

計上洩れ経費に関する原告の主張は、本件第一三回口頭弁論期日に至って初めてされたものであり、これを裏付ける何らの立証もなされていない。したがって、右計上洩れ経費は存在しないというべきである。

第三争点に対する判断

一  ロイヤルゴールドに対する債権の存否

1  証拠(甲二の一、二、甲六、甲一六の一、甲一七の二、甲二〇の一ないし五、乙三、六ないし八、乙九の一ないし三、乙一〇、証人加藤)及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実を認めることができる。

〈1〉 ロイヤルゴールドは、昭和五六年一一月に金地金、金製品の販売等を目的として設立され、吉増政子及び原告代表者安永郁夫が代表取締役となり、同人の弟安永賢治が取締役、原告の総務部長であった加藤涌利が監査役となった。しかし、昭和五八年四月二七日付で右役員はすべて退任し、その商号も「株式会社東辰」と変更され、辰口ヒデが代表取締役になった。

〈2〉 協和銀行新栄町支店から、振込依頼人を「安永郁朗」、その住所を「名古屋市東区葵一丁目二五番一号」(原告本店所在地であり、原告代表者安永所有のマンションである。)として、太陽神戸銀行新宿新都心支店の「ロイヤルゴールド(株)代表者安永郁夫」名義の口座に昭和五六年一二月二五日一九八万円が、並びに第一勧業銀行新宿西口支店の「ロイヤルゴールド(株)」名義の口座に、昭和五七年二月二六日二五〇万円、同年三月二五日二三〇万円、同年四月二七日二三〇万円及び同年五月三一日一三万円(いずれも手数料を含む。)がそれぞれ振り込まれた。

また、昭和五六年一一月四日、福徳相互銀行東新町支店から、振込みの依頼人を「安永郁夫」として、同相互銀行新宿支店の安永郁夫名義の別段預金に三一八五万円が振り込まれた(この事実は当事者間に争いがない。)。

〈3〉 信用組合愛知商銀瀬戸支店の原告の簿外預金である松本和雄名義の預金から昭和五六年九月一〇日三五〇万円、同年一一月四日八〇〇万円及び昭和五七年四月二七日二三〇万円の各引出しがあり、朝銀愛知信用組合今池支店の原告の簿外預金である大森隆名義の預金から、同日六〇〇万円、同年一二月二四日一九八万円、昭和五七年二月二六日二五〇万円及び同年三月二五日二三〇万円の各引出しがあった(この事実は当事者間に争いがない。)。

〈4〉 右簿外預金は原告の経営するホテルの売上除外にかかるものであり、同預金への入金については原告の経理担当者が把握していたが、出金については、経理担当者において帳簿を作成しておらず、原告代表者の個別の指示に基づいてなされていた。右〈2〉の認定にかかる振込みについても、原告の経理処理上貸付けないし投資としては計上されておらず、削孔の債権担保のための措置は何ら採られていない。

〈5〉 また、ロイヤルゴールドにおいても、右〈2〉のとおり振り込まれた金員については、いずれも「安永社長より」あるいは「社長より」の仮受金として経理し、仮受金の内訳書に記載された相手先名も安永郁夫個人名となっており、原告から融資ないし投資を受けたとの記憶はない。

〈6〉 原告がロイヤルゴールドから返済を受けたと主張する別表3の「2. 返済額」欄記載の金員は、原告の経理処理上、その帳簿に記載されていない。

〈7〉 本件更正前の税務調査において、原告及び原告代表者の経営にかかる近江松屋有限会社の売上除外及び簿外預金の存在が判明し、その使途について被告の係官から説明を求められたのに対し、原告側はロイヤルゴールドに対する融資ないし投資について説明しなかった。

2(一)  別表3記載の金員のうち、前記1〈2〉に認定した振込み以外の送金又は現金交付の事実については、これを裏付ける的確な証拠はない。また、貸付け又は投資がされる場合に通常当事者間で作成すると考えられる契約書、領収書等の客観的な証拠は何ら提出されておらず、前記1〈3〉の簿外預金から引き出された金員が別表3記載の送金ないし現金交付に用いられたことを認めるべき的確な証拠はない。

(二)  なお、証人加藤は、原告は別表3記載のとおりロイヤルゴールドに対して金員を貸し付けたと供述するけれども、その証言の前半においては、別表3記載の金員はロイヤルゴールドに対する投資であり、それは原告の定款に定められた目的にも沿うものであると述べていたものであり、同証人は、送金ないし交付したとする金員の性格という最も基本的な点について、一貫した説明をしていないものと言わざるを得ない。

また、同証人は、原告代表者個人名で送金したのは、原告の簿外預金から出す金であるので原告名を出すことができず、ただ、送金に際して事故があると困るので原告代表者個人の名前で送金したに過ぎない、ロイヤルゴールドにおいても、原告の簿外資金であるため、原告からの借入れとして計上することはでいなかったものであると供述するけれども、簿外預金からの出金であって出所を隠す必要性があるというのであれば、原告の氏名及びその所有するマンションの住所地を記載することについても同様の問題があると思われるのに、その点について同証人は合理的な説明をしていない。

また、ロイヤルゴールドに対しては約五七〇〇万円もの金員が投資ないし融資されたというのであるが、同証人は、ロイヤルゴールドの日計表等を通じてその経理を管理していたと供述しているにもかかわらず、その経営状況については、事実上昭和五七年三月には経営が行き詰まっていたこと、その原因は同月に金価格が暴落したためであることを説明するのみであって、ロイヤルゴールドの売上や収益の状況、投資ないし融資されたとする金員の使途、負債の状況等の具体的な事実については供述しておらず、また、同証人の右説明を前提とすると、ロイヤルゴールドの経営が行き詰まった後においても、送金が続けられたことになり、その供述内容は極めて不自然である。

さらに、ロイヤルゴールドからの返金ないし債権の回収に関しても、異議調査の段階においては、原告代表者及び証人加藤は、被告の係官に対して、ロイヤルゴールドが昭和五七年三月に増資した際に原告が三〇〇〇万円を出資したこっこれについては、昭和五六年一一月四日に送金された三一八五万円の一部が振り替えられた。)が、同年八月に八〇三万六四二三円につき清算により分配を受けたのでその差額二一九六万三五七七円が株式の清算損になると説明していた(甲二の一、二、乙六、七)のに対し、証人加藤は、右の説明は誤りであり、ロイヤルゴールドの増資に関しては別表3記載の金員とは別に一旦原告から三〇〇〇万円を送金し、増資が完了した時点で戻してもらった、ロイヤルゴールドからの返金は別表3の「2. 返金額」欄記載のとおりであると供述しているが、異議調査の段階でなぜ誤った説明をしたのかについては、合理的な理由を述べていない。

以上のとおりであるから、原告が別表3記載のとおりロイヤルゴールドに投資ないし貸付けをしていたとする証人加藤の供述は、不自然で不合理な点が多く、採用し難いものと言わざるを得ない。

3  右1、2に述べたところを前提として検討するに、右1〈2〉の送金の主体はその形式上安永郁夫個人であって原告ではなかったものであって、右1〈3〉のとおり原告の簿外預金から引き出された金員が直ちに原告によってロイヤルゴールドに対する投資又は融資として用いられたとすることはできず、また、別表3記載の金員のうち右送金にかかるもの以外の金員についても、原告がロイヤルゴールドに投資ないし融資したという事実を裏付ける的確な証拠はなく、かえって、原告がロイヤルゴールドに対して金員を融資ないし投資したという客観的な証拠を欠き、また、原告及びロイヤルゴールドの経理処理上、このような投資ないし融資の記録はないこと等の事情によれば、原告がロイヤルゴールドに金員を投資ないし融資した事実はないものと認めるのが相当である。

したがって、原告の主張するロイヤルゴールドに対する債権は存在しなかったものというべきである。

二  金門精工に対する債権の存否

1  証人加藤は別表4記載のとおり原告が金門精工に貸し付けたものであると供述し、また原告が貸付金の出所として主張する預金の引出しのうち、朝銀愛知信用組合今池支店の原告の簿外預金である大森隆名義の預金から昭和五六年一二月一五日に一七二万二〇〇〇円の引出しがあったこと、信用組合愛知商銀瀬戸支店の原告の簿外預金である松本和雄名義の預金から昭和五七年三月一六日に五〇〇万円の引出しがあったこと、同信用組合今池支店の金子均名義の預金から昭和五六年九月二九日七〇〇万円、同年八月一〇日四六〇万円の引出しがあったことは当事者間に争いがない。しかしながら、同証人は、金門精工に対する貸付けについては直接に関わっておらず、貸付が行われた後に原告の社長や常務から話を聞き、また、社長の金庫から出てきたメモで貸付けの事実を知った、しかし、そのメモは廃棄してしまったと供述しているのであり、同証人の供述から直ちにそのとおりの貸付けがあったものと認定することはできない。また、右のとおり原告の簿外預金から引き出された金員が原告の金門精工に対する貸付けとして同社に交付されたことを裏付ける的確な証拠はない。

さらに、原告は、金門精工の代表取締役佐藤皓夫が作成したとする「新事業計画要領」と題する書面(甲四の一ないし五)、「投(融)資のご依頼について」と題する書面(甲四の六)及び同人作成の「確認書」(甲四の七)、森山陸男が作成したとする「受領証」(甲五の一ないし三)を提出している。しかしながら、右「新事業計画要領」(甲四の一ないし五)の作成日付は昭和五六年七月三一日、「投(融)資のご依頼について」(甲四の六)の作成日付は同年八月一日であるところ、被告の調査によりその作成日当時販売されていなかったポート用紙が用いられていることが判明し(乙二)、原告において、紛失のため右佐藤から再度提出してもらったものであると主張するに至ったものであり、また、右受領証(甲五の一ないし三)も、「株式会社東洋プランニング代表取締役森山陸男」の名刺の裏あるいは手帳を破ったものとみられる紙片にそれぞれ五〇〇万円を受領した旨並びに日付及び森山の氏名のみを記載したものに過ぎず、しかも、原告の総務部長である加藤は、裏付けになるものが欲しいと言って、右受領証を昭和六二年ころ受け取ったものであると供述していること(証人加藤)からすると、これらの書証をもって、原告の金門精工に対する貸付けの事実を裏付ける証拠とみることは到底できない。

2  他方、証拠(乙一〇及び証人加藤)によれば、金門精工の法人税の確定申告書に添付されている昭和五五年三月二〇日、昭和五六年三月二〇日及び昭和五七年三月二〇日現在の各貸借対照表及び勘定科目内訳明細書には、原告からの出資の受入れないし原告に対する債務についての記載はなかったこと、及び五〇〇〇万円という多額の融資であるにもかかわらず、契約書は作成されず、債権担保のための措置は何ら採られなかったことが認められる。

3  右1、2の事実を総合すると、原告が金門精工に対して別表4記載の金員の貸付けをした事実はなかったものと認定するのが相当である。

三  タムラ商事に対する債権の存否

1  原告はタムラ商事に対して別表5記載のとおり金員を貸し付けたとする証拠としてタムラ商事代表取締役中澤勝雄作成の領収書(甲九の一ないし一二)を提出しているけれども、これは金員の交付の際に作成されたものではなく、原告の依頼により事後に作成されたものであり(証人加藤)、しかも、異議調査の段階で原告から提出された同旨の領収証(乙四の一ないし一〇)とは本来同一のものでなければならないのに、日付の異なるもの、記載分言の異なるもの、異議調査の際には提出されなかったもの等が含まれているのであり、原告主張のとおりの金員の裏付けが行われたとする客観的な証拠とは認め難い。また、同じくタムラ商事代表取締役中澤勝雄作成の昭和六〇年六月二五日付の書面(甲一〇)及び同月一二日付の書面(甲一一)が提出され、タムラ商事が原告から合計二九〇〇万円の融資を受けた旨が記載されているけれども、いずれも本件更正の後に作成された書面であり、融資を受けた期間の記載についてくい違いがあり、いずれも、原告主張の貸付けが行われたとする的確な証拠とはいい難い。

2  また、原告が、貸し付けた金員の出所として主張する預金の引出しのうち、朝銀愛知信用組合今池支店の原告の簿外預金である大森隆名義の預金から昭和五七年三月二五日二三〇万円、同月三一日四〇万円、同年七月三日二〇〇万円、同月一四日一〇〇万円、同月一六日五〇万円、同月二三日一〇〇万円及び同年八月一〇日一九〇万円の各引出しがあったこと、信用組合愛知証銀瀬戸支店の原告の簿外預金である松本和雄名義の預金から同年五月一日に一三〇万三四八〇円の引出しがあったこと、並びに信用組合愛知証銀今池支店の原守名義の預金から同月一一日九九万九〇〇〇円及び同年六月三日九九万九四〇〇円の引出しがあったことは当事者間に争いがないけれども、右各金員が直ちに原告のタムラ商事に対する貸付けとして同社に交付されたことを裏付ける的確な証拠はない。

3  他方、証拠(乙一〇、証人加藤)によれば、タムラ商事の昭和五七年四月一日から昭和五八年三月三一日までの事業年度の法人税の確定申告書に添付された貸借対照表には原告からの出資の受入れないし原告に対する債務についての記載はなく、また、損益計算書にも売上、仕入共に金額の記載がなく、同社は休業状態であったことが認められる。

また、二九〇〇万円という多額の融資であるにもかかわらず、債権担保のための措置が採られた形跡はないし、また、債権回収のための努力がされた形跡もない。

4  右1ないし3の事実を総合すると、原告がタムラ商事ら対して、別表5記載の金員の貸付けをした事実はなかったものと認定するのが相当である。

四  計上洩れ経費の存否

原告は、計上洩れ経費として、纐纈司法書士手数料、印紙代及びテーラー伊藤手数料として合計五六万六七七〇円が存在すると主張するけれども、これを裏付ける証拠は何ら提出されていない。そして、右主張は、平成元年一月三〇日に当裁判所に提出され、同年四月一二日の本件第一四回口頭弁論期日において陳述された準備書面によって初めてされたものであり(記録上明らか)、国税不服審判所の裁決書(乙一〇)にも、審査請求人の主張として記載されていないことをも考慮すると、原告主張の計上洩れ経費は存在しないものというべきである。

第四結論

以上のとおりであるから、原告が本件各事業年度において損金算入を主張する回収不能の債権及び計上洩れ経費は、いずれも存在しないものというべきであり、そうすると、原告の本件各事業年度の所得金額は、前記第二の一3及び4記載のとおり、原告の修正申告にかかる所得金額に、売上除外にかかる益金及び簿外預金に対する受取利息を加算し、未納事業税を減算した金額、すなわち、昭和五八年三月期は八一六一万二五六五円、昭和五九年三月期は七一六八万八三七四円となるものというべきである。したがって、本件更正は、いずれも右所得金額の範囲内でなされた適法なものであるということができる。

(裁判長裁判官 瀬戸正義 裁判官 杉原則彦 裁判官 後藤博)

別表1 課税処分経緯表

昭和五八年三月期(昭和五七年四月一日~昭和五八年三月三一日)

〈省略〉

別表2 課税処分経緯表

昭和五九年三月期(昭和五八年四月一日~昭和五九年三月三一日)

〈省略〉

別表3

ロイヤルゴールド投資明細

1.投資金額

〈省略〉

2.返金額

〈省略〉

別表4

金門精工投資明細

〈省略〉

別表5

タムラ商事株式会社

〈省略〉

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